現在の状況は一昨年のコメ不足のときに類似した状況のようにも見えます。しかしコメの時と大きく異なるのは、製品や原料を供給するサプライチェーンの遥か上流の外国で起こっている点です。
報道等では、ナフサ不足等の原因で広範囲にわたる製品供給懸念が取り上げられていますが、当面かつてと同じ量・質のものは手に入らない(=すなわち売上も大きく減少する)ことを覚悟して準備をしなくてはならない事態に残念ながらなってしまっていると思います。
必要な原料や資材を自力でいま調達しようとすれば、供給できる相手が存在していたとしても、足許を見られる可能性が高いと思います。相手も同様に背に腹は代えられない状況であるはずです。それに、日本国内で需要に見合う供給がそもそも期待できないのであれば、いくら買値を上げても、モノがなければどうしようもありません。
このような理不尽な不可抗力で日本の中小事業者が痛手を被る状況を看過するほど、我が国は貧祖ではないので、早め早めに相談すべきだと思います。例えば、中小企業基盤整備機構さんは「中東・ウクライナ情勢・原油価格上昇等に関する特別相談窓口」を設置されています。(都内の事業者に限られますが)東京都中小企業振興公社さんも同様に相談窓口を設置されています。詳しくは両組織のHPをご参照ください。
こうした公的相談窓口にかかるメリットは2つあると考えます。1つ目は無料でプロのアドバイスを受けることができるという点です。中小企業診断士や会計士、税理士、弁護士、社労士。残念ながら、私たち行政書士はこの分野で公的機関からは専門家と認知されていないようです。例えば補助金の申請支援は私たち行政書士の本業なのですが認知度が足りていないのかもしれません。業界の課題として私たちがもっと積極的に取り組むべきテーマだと思います。
(司法試験のように何年も専業で受験勉強をし続ける資格ではありませんので)行政書士には、ほとんどの人に相応の期間の前職経験があり、いろいろなバックグラウンドを持つ人材が集まっていて実は守備範囲が広い国家資格です。(あくまで個人的意見ですが、誤解を恐れずに言えば)、行政書士という資格は私たち一人一人の身分を示すものであり、そのIDを使ってこれまでの経験を社会に活かしたいと考える人たちの集合体でもあると思っています。
閑話休題、2つ目は民の声、特に財務基盤がぜい弱な中小の事業者がどれほど困っているのかという実情を直接公的機関に訴える効果です。こちらの方が重要だと思います。草の根的運動にはなりますが、政府の楽観的(パニックを惹起しないがためのおそらく意図的な)スタンスは、(高市総理大臣には大変申し訳ないのですが)、却って不安心理を煽っていると憂慮します。政府に現実をしっかり受け止めてもらうには、中小事業者の生の声をできるだけ多く伝えていくしかありません。
サプライチェーンの上流から下流までタッグを組んで緊密に連携・協働して危機を乗り越えることができるよう耐え忍ぶしかないと思います。コロナ禍や近年の大震災の経験は今回の危機にも活かせると思います。ただ、サプライチェーンの上流や下流とは利益が相反する面も当然あり、最初から本音で正直に情報交換することは難しいかもしれません。案外、担当者ベースでのお付き合いが中心になってしまっていたり、普段はトップ同士のやり取りが少ないかもしれません。しかし、このような事態ではやはりトップ同士の情報交換が必須だと思います。サプライチェーン上にある以上、same boatに乗る同士としてお話しておくタイミングだと思います。
トップ同士が胸襟を開いて協議をするためのドアノックツールをひとつご紹介します。
中小企業庁施策の事業継続力強化計画の認定を受けることです。
出典:中小企業庁 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html
事業継続力強化計画には、単独タイプと連携タイプがあります。自力では事業継続が困難になることは今回のような戦時はもとより、自然災害やサイバー攻撃を受けた場合にも起こりえます。そのため、より実効性のある事業継続力を強化する手段として連携型があります。
連携する相手は、事業上のリスクによって異なります。原材料・資材調達や有事の際の供給責任を相互に担保し合う相手であれば、同時に自然災害に被災しない、遠隔地であるべきでしょうし、有事の際に協働して事業の再稼働を行うのであれば、近隣の取引先や得意先との連携であるべきです。
上記リンクにある中小企業庁「中小企業等経営強化法-連携事業継続力強化計画 策定の手引き(令和8年2月18日版13頁)」によれば、連携には以下の類型があります。
「【組合等を通じた水平的な連携】
同業種又は異業種に属する複数の中小企業者で構成される。
代替生産の実施、復旧等に必要な人員や設備の融通、原材料・部品の確保の協力、車両・倉庫等の相互利用、災害対応設備等の共同導入・利用等、複数の中小企業者が連携して事業継続力強化に取り組む。
【サプライチェーンにおける垂直的な連携】
原材料・部品等の需給関係にある複数の親事業者や中小企業者で構成される。
水平的な連携での取組に加え、親事業者を中心に、取引先中小企業者の事業継続力強化に向けたセミナーの開催、被害状況の共有と迅速な復旧支援に向けた体制の構築等、複数の親事業者や中小企業者が連携して事業継続力強化に取り組む。
【地域における面的な連携】
工業団地、商店街、卸団地、地域の商工業者における親睦団体その他の地縁的な関係を有する複数の中小企業者で構成される。
水平的な連携での取組に加え、地方公共団体や自治会組織等、地域の復旧活動に関わる関係機関との協力関係の構築等、地域における面的連携により、事業継続力強化に取り組む。」
こうした類型を意識して連携型の事業継続力強化計画を策定する目的は次のように説明されています。「中小企業等経営強化法-連携事業継続力強化計画 策定の手引き(令和8年2月18日版1頁)」
「計画策定の目的
事業継続力の強化を図る上で、個別事業者では対応が難しい、又は非効率なことであっても、複数の事業者が連携することで大きな成果に繋がる場合もあります。
連携型の特徴は、以下のとおりです。
①災害等発生時に自社のリソースだけでは早期復旧が困難な場合があるが、連携事業者の協力を得ることで早期復旧が可能となる(例えば、事業所内に流入した土砂の撤去作業を連携事業者の協力を得ながら行う。)
②集団で取り組むことにより、発信力・交渉力などが強化される
③被害を受けなかった事業者と協力関係を構築していることで、代替生産や復旧に向けた人員応援が可能となる」
事業継続力強化計画認定を受けることで目に見える経済的メリットがあります(損害保険料の減免、公的金融機関からの融資における適用金利減免、特別償却等/詳細は-上記リンクの「中小企業等経営強化法-事業継続力強化計画認定制度の概要」をご参照ください)。
しかしより本質的で重要なことは、事業上の連携相手を探すことであり、そうした相手と緊密な協議をすること自体が新たなビジネスチャンス発掘のきっかけともなりえることです。そして信頼できる連携相手を見つけることができれば、将来的な事業承継(昨今問題になっている、後継者不在に伴う惜しまれながらの黒字廃業を避けるため)の一つにもなると思います。
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私自身も令和7年度事業継続力強化計画認定事業者です。