「2040年度までに累計370兆円を超える官民投資」とその巨額さで話題になった『日本成長戦略2026年7月21日』に関して建設業を中心に中小企業経営者のみなさまにご関心がありそうな部分をまとめてみました。
『日本成長戦略』のAI・半導体をはじめとする17の戦略分野(後掲)はいわゆる総花的で、実際には超大企業または大企業が主として関係する事業領域と思われる一方、中小企業経営者のみなさまにも関係ある部分はあります。要旨を整理すると、概ね以下のような内容になると考えます。
”労働人口が減少する中、いかに労働生産性を向上し、サステナブルな社会に移行するかが課題。AIトランスフォーメーションなど技術革新を通じて生産性を向上することで労働人口減少を打ち返し、インフレに耐えうる賃上げを実現し、万人にとって幸福な社会を実現するため政府は中小企業支援を積極的に打ち出す。リ・スキリングも大いに支援する。”(当職の独自見解です。詳しくは内閣官房HPをぜひご覧ください)。
主要項目は次の通りです(文中太字は当職)。
労働市場改革『日本成長戦略56頁』
「17の戦略分野にとどまらず、これらを支える建設や医療・介護・障害福祉を始めとした社会インフラ関連分野を含め、現場人材から高度人材に至る幅広い人材の育成・確保や、省力化を含めた生産性向上に向けた取組を進めることが極めて重要である。」
そのための施策として以下等を挙げており、とくに建設業を重要視している内容です。
処遇向上に向けたリ・スキリング支援や労働生産性向上(同57頁)
「17の戦略分野や、建設や医療・介護・障害福祉を始めとした社会インフラ関連分野等の業所管省庁と厚生労働省、経済産業省、文部科学省が、業界団体や大学等と連携して、スキルの標準化・可視化から、教育訓練体系の整備、教育訓練プログラムの開発・提供まで、一気通貫でリ・スキリング支援を行う。
~中略~
まず、17の戦略分野の投資促進により需要の高まる工場建設等を担う人材の育成・確保を図り、建設産業の供給力を向上させるため、建設分野において上記取組を進めるとともに、労務費の行き渡りの徹底や入職促進、DX推進に向けた支援を実施するほか、キャリアに応じた技能の向上等につながる資格取得の支援、建設キャリアアップシステムの普及促進を図る建設事業主等への助成等の支援を行う。」(同57頁)
労働生産性の考え方については業界の違いなどによりいくつかのパターンがありますが、建設業の場合、完成工事高(いわゆる売上高)から外注費(含む外注労務費)と材料費を控除した金額が一般に付加価値とされます。付加価値を年平均総職員数で除すと労働生産性(単位:円)が求められます。
労働生産性を向上させるには、もちろん売上高を増やすのが一番効果的ですが、売上には常に必ず相手があるのでコントロールは難しいです。よって一般的には、機械設備等の有形固定資産の利活用やAI導入等によって、限られた人員ベースの生産性を向上させることが付加価値増大すなわち労働生産性向上に効果的と考えられています。
労働生産性が高まれば、取引先はより高品質なモノやサービスの提供をより早く受けることができるようになり、経営者は利潤が増え、労働者はより少ない労働時間でより高い報酬を得られるようになり、株主・出資者もより多くの利益分配を受けることができるようになります。まさに関係者全員がWIN-WIN-WINの関係になります。
「M&A・事業承継」への言及
「現状維持ではなく、事業再構築・生産性向上・事業再編等に取り組む中堅・中小企業を徹底的に支援し、必要な連携と再編を促すことで、「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環を目指す~以下省略」 (同63頁)や、「経営者交代や経営資源の集約等による経営改革を通じて成長を実現するために、M&A・事業承継、成長型再生を促進する事業環境整備を行う。」(同64頁)とも述べており、業界再編・M&Aは益々重要になってくるものと考えられます。
「日本経済を担う成長志向企業創出のエコシステム構築」(同64頁)
「中小企業の成長局面での資金需要に対応するため、民間金融機関と信用保証協会の責任共有割合や保証限度額に係る新たな仕組みの設計や、日本政策金融公庫等と民間金融機関との協調による成長資金の供給を推進する。」
「官公需における価格転嫁・取引適正化加速化プラン」(同65頁)
- 中小企業にとっても、より有利な価格で公共入札に臨むことができる素地が国を挙げて作られることを意味するものです。
「省力化投資促進プランの着実な実行」(同66頁)
- 直接的17の戦略分野ではありませんが、「飲食業、宿泊業、小売業、理容業・美容業・クリーニング業・冠婚葬祭業、自動車整備業・ビルメンテナンス業・警備業、製造業、運輸業、建設業、医療、介護・福祉、保育、農林水産業を対象とする「省力化投資促進プラン」の更なる充実・拡充を図る」。ほか、中小企業省力化投資補助金、デジタル化・AI導入補助金、業務改善助成金等の各種補助金・助成金等にも注力する内容です。(同66頁より抜粋・引用)
またサイバーセキュリティはもはや企業規模の大小を問わず、重大な経営リスクと捉えるべき時代になっています。(同67頁)
以上、ご興味を引きそうなテーマを抜粋してみました。政府は「責任ある積極財政」を打ち出しており、ある程度は厳しく取捨選択する方針であるはずですが、中小企業支援はより積極化することが確認できました。とりわけ17の戦略分野に対して中小企業が積極的に関与することができるように重点的に支援する方針です。
政府からのバックアップは好むと好まざるとに拘わらず、経営にぜひとも有効活用すべきと考えます。中小企業経営者のみなさまは、いつも大変お忙しいことと存じますが、『日本成長戦略2026年7月21日』をご一読されることをおススメいたします。
本テーマについてご質問等ある方はこちらまで↓
『日本成長戦略』に掲げられている17の戦略分野とは、(1)AI・半導体、(2)デジタル・サイバーセキュリティ、(3)情報通信、(4)量子、(5)防衛産業、(6)航空・宇宙、(7)海洋、(8)造船、(9)マテリアル(重要鉱物・部素材)、(10)合成生物学・バイオ、(11)創薬・先端医療、(12)資源・エネルエネルギー安全保障・GX、(13)フュージョンエネルギー、(14)防災・国土強靭化、(15)港湾ロボティックス、(16)フードテック、(17)コンテンツです。
【ご参考】最終75頁に、「戦略的広報の抜本的強化」として、「真に効果的な施策を立案したとしても、それが民間企業や国民に届き、行動変容につながらなければ、意味をなさない”ため、”あらゆる手段を尽くして様々な層の方に向けた内外への効果的で戦略的な政策発信・コミュニケーションを抜本強化する」と記されています。内閣広報予算が10倍に増えた一因かもしれません。
出典:日本成長戦略(2026年7月21日)、省力化投資促進プラン 内閣官房ホームページ日本成長戦略会議https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/index.html