身近な産業における事業承継~クリーニング業

私たちの生活に身近でお役所で”生活衛生”と呼ばれる産業分野においても、事業承継がしやすいような仕組みが用意されています。たとえばクリーニング業法には次の規定があります。

クリーニング業法第一条によれば 「この法律は、クリーニング業に対して、公衆衛生等の見地から必要な指導及び取締りを行い、もつてその経営を公共の福祉に適合させるとともに、利用者の利益の擁護を図ることを」目的としています。そのためクリーニング業を営むためには”モノとヒトの要件”があります。

モノの要件として構造設備の検査を受けなくてはなりません。また、ドライクリーニング溶剤としてテトラクロロエチレンを使用する場合の措置等が規定されています。

「(営業者の衛生措置等)第三条 営業者は、クリーニング所以外において、営業として洗たく物の処理を行い、又は行わせてはならない。2 営業者は、洗たく物の洗たくをするクリーニング所に、業務用の機械として、洗たく機及び脱水機をそれぞれ少くとも一台備えなければならない。(以下、第2項ただし書き並びに第3項は割愛)」

「(クリーニング所の使用)第五条の二 営業者は、そのクリーニング所の構造設備について都道府県知事の検査を受けその構造設備が第三条第二項又は第三項の規定に適合する旨の確認を受けた後でなければ、当該クリーニング所を使用してはならない。」 

次にヒトの要件として専門人材を置く必要があります。

「(クリーニング師の設置)
第四条 営業者は、クリーニング所(洗たく物の受取及び引渡のみを行うものを除く。)ごとに、一人以上のクリーニング師を置かなければならない。ただし、営業者がクリーニング師であつて、自ら、主として一のクリーニング所においてその業務に従事するときは、当該クリーニング所については、この限りでない。」(クリーニング師は東京都では年に一度しか試験のない国家資格です)

以上をクリアした上で、都道府県知事に届出をしなくてはなりません。なお、”届出”という文言が使用されていますが、実質的には”許可”に等しい性質のものと言えます。

「(営業者の届出)
第五条 クリーニング所を開設しようとする者は、厚生労働省令の定めるところより、クリーニング所の位置、構造設備及び従事者数並びにクリーニング師の氏名その他必要な事項をあらかじめ都道府県知事に届け出なければならない。
2 クリーニング所を開設しないで洗濯物の受取及び引渡しをすることを営業としようとする者は、厚生労働省令の定めるところにより、営業方法、従事者数その他必要な事項をあらかじめ都道府県知事に届け出なければならない。」

参考:厚生労働省令(クリーニング業法施行規則)(営業者の届出)
第一条の三 法第五条第一項の規定による開設の届出は、次の事項を記載した届出書を開設地を管轄する都道府県知事(地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の規定に基づく政令で定める市又は特別区にあつては市長又は区長。次項及び第二条の二から第二条の五までにおいて同じ。)に提出することによつて行うものとする。
一 クリーニング所の名称
二 クリーニング所の所在地
三 クリーニング所開設の予定年月日
四 クリーニング所の構造及び設備の概要
五 営業者(管理人を置いたときは、その管理人を含む。)の氏名、本籍及び生年月日又は名称並びに住所
六 従事者中にクリーニング師のある場合には、その本籍、住所、氏名及び生年月日並びに登録番号
七 従事者数
八 洗たく物の受取及び引渡しのみを行うクリーニング所にあつては、その旨
九 法第三条第三項第五号に規定する洗たく物を取り扱わないクリーニング所にあつては、その旨
2 法第五条第二項の規定による営業の届出は、次の事項を記載した届出書を営業しようとする区域ごとに当該区域を管轄する都道府県知事に提出することによつて行うものとする。
一 無店舗取次店の名称
二 業務用車両の自動車登録番号又は車両番号及び車両の保管場所
三 営業区域
四 営業開始の予定年月日
五 業務用車両の構造の概要
六 営業者の氏名、本籍、生年月日、住所及び電話番号又は名称、住所及び電話番号
七 従事者中にクリーニング師のある場合には、その本籍、住所、氏名及び生年月日並びに登録番号
八 従事者数
九 法第三条第三項第五号に規定する洗たく物を取り扱わない無店舗取次店にあつては、その旨
3 法第五条第三項の規定による変更及び廃止の届出は、その旨を前二項の規定に準じて行うものとする。

東京都中野区の場合は、保健所長を経由して中野区長に提出することになっています。

クリーニング業をゼロから始めるときの主な手続は以上です。

しかし昨今、人手不足、資材・燃料価格の高騰、事業者の高年齢化等により、事業の継続や承継はクリーニング業界の最重要課題のひとつと考えられます。町からクリーニング店がなくなるととても困ることは言うまでもないことだと思います。そのため、営業の連続性が維持される地位の承継においては、事後の届出で済むようになりました。

上述のヒトとモノの要件はそれぞれ満たすことが前提にはなりますが、次の規定が適用されればクリーニング業の地位を承継した後に事後の届で営業を続けることができますいわゆるM&Aを後押しする仕組みと言えます。

「(地位の承継)
第五条の三 第五条第一項又は第二項の届出をした営業者が当該営業を譲渡し、又は当該届出をした営業者について相続、合併若しくは分割(当該営業を承継させるものに限る。)があつたときは、当該営業を譲り受けた者又は相続人(相続人が二人以上ある場合において、その全員の同意により当該営業を承継すべき相続人を選定したときは、その者)、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人若しくは分割により当該営業を承継した法人は、当該届出をした営業者の地位を承継する。
2 前項の規定により営業者の地位を承継した者は、遅滞なく、その事実を証する書面を添えて、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。」

クリーニング業法施行規則(地位の承継の届出)
第二条の二 法第五条の三第二項の規定により譲渡による営業者の地位の承継の届出をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した届出書をクリーニング所の開設地又は無店舗取次店を営業しようとする区域を管轄する都道府県知事に提出しなければならない。
一 届出者の住所、氏名及び生年月日(法人にあつては、その名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名)
二 営業を譲渡した者の住所及び氏名(法人にあつては、その名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名)
三 譲渡の年月日
四 クリーニング所又は無店舗取次店の名称
五 クリーニング所の所在地又は無店舗取次店の業務用車両の保管場所及び自動車登録番号若しくは車両番号
2 前項の届出書には、営業の譲渡が行われたことを証する書類を添付しなければならない。
3 前条の規定は、第一項の規定による届出について準用する。この場合において、同条中「前条第一項及び第二項」とあるのは「次条第一項」と、「同条第一項及び第二項」とあるのは「同項」と読み替えるものとする。 

(注:譲渡のほか、相続の場合、合併・分割の場合、それぞれのケースで必要な書類が規定されています。)

ちなみに東京都中野区では、「地位の承継」規定の適用を受けるためには、まず中野区保健所の生活衛生窓口に出向いて事前相談することが条件になっています。申請に必要な書式は窓口相談時に手渡しされます。

地位の承継を証明する情報としては、事業譲渡契約書、合併・分割会社の登記、相続人の法定相続情報一覧図等が必要です。さらに相続人が2人以上いる場合には、相続人が地位を承継することについて相続人全員の同意書が必要です。

私見ですが、事業譲渡、合併・分割の法的効力が発効する前に、事前相談のさらに事前の相談をしておくことが望ましいと考えます。事業譲渡などの手続を完了したのちに、保健所に相談して本規定適用の条件(すべての事業や設備を譲渡・譲受すること)に合致しないことが判明した場合、通常の開所に求められる事前届出をしなくてはならなくなるからです。

事業譲渡と、合併・分割との主な違いは下記リンクの建設業の承継でも言及しています。とりわけ事業譲渡の場合には、株主、従業員、金融機関等の債権者など、すべての利害関係者の権利を侵害しないよう慎重に進める必要があります。https://ktanaka-capls.com/knowledge-transfer/sme/8861/

相続の場合にはさらに留意すべき点があると言えます。

事業譲渡や合併・分割の法的効力発生日は当事者間で任意に決めることができますが、相続はいつ起こるか誰にもわかりません。経営者が元気なうちに意中の後継者としっかり話をしておくことは極めて重要だと思います。推定相続人に後継者がいない場合、事業譲渡するのか廃業するのか経営者自身がしっかり考えなくてはなりません。

相続が発生すると相続人を特定することから作業が始まりますが、被相続人の家族関係次第では相続人の特定が容易ではない場合もあります。上述の通り、相続人全員の同意が必要ですから、消息不明の相続人や相続人であっても関係が良くなくて連絡を取り難い人等がいれば直ちに紛糾します。そしてなにより、被相続人から見て意中であった相続人に相続を放棄されてしまうと振り出しに戻ることになります。

個人事業主としてクリーニング業を営まれている場合、推定相続人と協議し、できれば公正証書遺言を準備して、ほかの相続人全員に意思を伝えることが望ましいと考えます。また税をはじめいろいろな論点において専門家に相談することが必要となるので、事業承継プランは早めの策定が望ましいと思います。

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    関係法令:クリーニング業法、クリーニング業法施行規則(厚生労働省令)(以上出典:e-Gov法令検索)、中野区クリーニング所において講ずべき措置を定める条例、中野区クリーニング業法施行細則

    参考書籍:事業譲渡の実務(第2版)商事法務372頁

    その他の参考情報:東京都公式ホームぺージ

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