BCP(事業継続計画)を作るときのポイント その①

BCP(事業継続計画)策定は、経営戦略そのものであると経営トップがまず認識することが最も重要なポイントです。

2025年版 中小企業白書では、多くの企業にとって人材確保・育成が最重要の経営課題とされています。再掲 https://ktanaka-capls.com/knowledge-transfer/sme/for-your-business-continuity-planning/4181/

残念ながらわが国では、地震や津波は珍しい災害ではありません。また近年、日本全国で豪雨災害の激甚化・頻発化が顕著になってきています。すなわち、自然災害は不可抗力だから企業は免責されるという経営者の認識はもはや通用しなくなっているということです。いつなんどき発生しても不思議ではない自然災害に対して無防備であったことで、従業員の生命が脅かされたとなれば、経営者は責任を免れません。法的な責任を直接問われなかったとしても、経営者としての道義的責任は問われます。経営への信頼を失った従業員が流出することもありえるでしょう。

ちなみに東日本大震災で銀行行員が津波の犠牲になった事件では、銀行側に安全配慮義務があったことを最高裁も認めています。但し、義務違反はないとの判断です。「本件に即して言えば,被告は,本件被災行員ら3名が使用者又は上司の指示に従って遂行する業務を管理するに当たっては,その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。七十七銀行女川支店津波事件仙台地裁平成26年2月25日判決文37頁」

私も元銀行員であるため、判決文で詳述されている津波発生当時の状況、極限まで緊迫した状況で屋上に避難するも、誰も想定できなかった20メートルの津波に飲み込まれて、13名のうち12名(支店長含む)が亡くなったこの事件にはいたたまれない思いです。被告の銀行側に安全配慮義務はあったが、義務違反はなかったという司法判断が確定しています。

「わがにおいては、自然災害だからといって、安全配慮義務を免れることはないと考えておくべきでしょう。事業継続(BCP)を構築するにあたっても、まずは、社が業員・関係者の生命健康等の安全を守れる体制を考え、作り上げていくことが前提件であるという認識を持っておきたいものです。」(防災減災の法務 中野明安津久井進編 有斐閣 4頁)

人材確保が困難な現代においては、BCP(事業継続計画)を策定していることは従業員にとって安心材料になります。人材獲得に際して、経営者としてアピール材料にもなるでしょう。できれば更にもう一歩踏み込んで、サプライチェイン上にある企業群による連携方式BCP(事業継続計画)を策定することができれば、従業員の安心度はより増します。

2025年版 「中小企業白書」では、経営者自身が採用に取り組む企業(約9千社)のうち54%が予定人数を採用できた一方、採用を人事部任せにした企業で予定人数を採用できたのは39.6%にとどまっています(2025年版「中小企業白書」124頁)。

企業経営者自身がBCP策定に率先して取り組む必要があります。しかし最初から100点満点の計画は目指さず、できることからできる範囲で着手することが完成までやり抜くポイントだと思います。会社として投入する時間とエネルギーは、BCPを作ることにではなく、BCPを作ってからかける心づもりで。

上記裁判例の判決全文は、裁判所データベースで検索することが可能です。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search4

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