BCP(事業継続計画)の策定は、有事の際のためだけではありません。むしろ、平常時のコスト削減や業務見直しに資するという好事例が2025年版「中小企業白書」に掲載されています。
2025年版「中小企業白書」第1部 第9章 中小企業・小規模事業者の事例として65頁に、”アイ・エム・マムロ株式会社”さんの例が掲載されています。そこには次のような印象的な文章がありました。
「この出来事(2018年の豪雨による水害)は、同社の高橋智之社長が 10歳のときに集中豪雨で被災して自衛隊に救助された経験と重なり、災害対策を喫緊の課題と捉えるに至った。」
経営者ご自身の過去の被災経験に基づき、2008年にBCPセミナーに参加されたときの学びを基に、2018年の水害(自社には影響なし)がきっかけとなって、トップダウンで進んだBCP策定のようです。
「「自社にしかできない事業か」という観点で事業や製造工程などを見直し、他社で代替可能なことは切り捨てる判断も明確にした。」
その結果、
「BCP 策定が顧客の信頼獲得や、コスト削減・生産効率向上、人材確保につながる」、
そしてさらには
「同社の近隣地域では、若者が都心部へ流出してしまう傾向が続いているが、BCP 関連の取組や災害対策の徹底は従業員の心理的安全性を担保し、人材確保の一助にもなっている。」
社長さんの子供時代のご経験が、BCP策定において一番強力でかつ直接的ドライバーであったようですが、そのご経験を過去の記憶にとどめず、自社の発展に繋げられた経営手腕は素晴らしいと思いました。当社の場合、近隣で発生した水害では、幸い直接の被害はなかったものの、それを機にBCPを策定され、結果的に経営リソースの最適化となり、中小企業共通の経営課題である人材確保にも資するものとなったというのは、非常に示唆的であり、BCP策定の大きなモチベーションになると思います。
2025年版「中小企業白書」では、企業規模の大小を問わず、最重要経営課題は「人材確保・育成」であることが改めて浮き彫りになっています。しかし、人材不足は一朝一夕には解消しないと思われ、ひょっとしたらこれから半永久的な経営課題となるかもしれません。であれば発想を転換して、無駄な業務を徹底的に見直し、この好事例にもあるように、「自社にしかできない事業」以外を思い切って切り離すことも必要になります。その領域に従事する従業員の方もいらっしゃるので、直ちに実行には移せないと思いますが、自社にとって優先的に継続すべき事業が何であるか問い直し、見つめ直すこと、有事の際にその事業を優先的に再開・継続するために備えること、それ自体が建設的な経営戦略であるはずです。
つまり、BCP策定は有益な経営戦略策定そのものであると言えます。
出典:2025年版「中小企業白書」中小企業庁 令和7年4月25日
詳しくはhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho.html