建設業界大再編時代の本格到来を予見

建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(建設業法、公共工事の品質確保の促進に関する法律「品確法」、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律「入契適正化法」)が12月12日に施行されました。建設業の担い手を確保するための法改正です。ここ数年、自分の生活圏においてもいたるところでまちの新陳代謝が起こっており、酷暑の中、そしていまの冬寒の中、屋外で仕事をされている方たちには本当に頭が下がります。

今回の改正法令施行は、建設業界にもついに敏腕コンプライアンスオフィサーが必須になる時代が来たということと理解しました。私が1993年から29年働いた金融業界は、仕事の半分くらいはコンプラ対応だったと言っても過言ではない世界でした。金融業界においてコンプライアンスという言葉が意識され始めたのは私が記憶する限り1990年代後半でしたのでかれこれ30年たちますが、経済界におけるコンプラ対応は厳しくなることはあっても緩むことはなさそうです。

これから建設業界を覆いつくすであろうコンプラの波に対応できる人材確保に余念のない会社がいまは大多数であろうと思います。

しかし今回の改正法令下で、労務費を確保することを最優先した受発注を実効的に行うには、元請け、下請け、2次下請け、3次下請け等が最初から連携して受注活動を行う必要があるのではないかと思います。現実的には難しいかもしれませんが、重層下請けの下位の企業が起点となって労務費を精確に見積もって上位事業者へ伝え、それを受け取った事業者がその数値を考慮して、さらに重層構造の上へ上へとつなげていくボトムアップ式受注体制が構築されるべきではないかと思います。

ただある一つの工事案件で受注費用をできるだけ精確に見積もり、適正マージンを確保しつつも、極力見積もりから逸脱しないように原価や経費をコントロールし、それでいて受注能力を低下させないようにすることが必須となれば、まず原価計算の精度向上が第一に要求されますが、ただでさえ人手不足のなか、原価計算とその管理にどこまでリソースを投入することが可能なのか心配です。

中央建設業審議会の勧告では、”特に建築工事においては、改正法施行時点において、材料費、労務費、機械損料、経費等が内訳明示されていない総価一式での取引が一般的となっている職種・工種が多いことに留意し、○専門工事業団体において、標準見積書の見直し・作成・利用促進を進めること ○国土交通省において、発注者と元請建設業者の間の見積りに際しての留意点を整理するとともに、「専門工事業者向けの見積書の様式例及びその解説」「専門工事業団体向けの標準見積書の作成手順」等の見積書の作成を容易化するツールを公表することといった実効性確保策を講じることが適切である。” (出典:労務費に関する基準(案)13頁/中央建設業審議会)といみじくも指摘されています。

つまり今回の改正法令施行を受けて、建設業界の中で事業継続に必要十分なリソースを持つものと持たざるものとの格差はますます大きくなり、建設業界の大再編が起こるのではないかと勝手ながら推測します。

建設業界の一番の問題が重層下請け構造にあることにはだれも異存はないと思いますが、重層下請け構造から脱却するには業界再編(建設企業数を減らし、ヒト、モノ、カネの3つのリソースを適正に業界内で再配分する)が不可避ではないかと思います。既にM&Aや相続など事業承継をバックアップする条文が建設業法に追加され施行されています。

建設業法 (譲渡及び譲受け並びに合併及び分割)(出典:e-Gov法令検索、抜粋)
第十七条の二 建設業者が許可に係る建設業の全部(以下単に「建設業の全部」という。)の譲渡を行う場合(当該建設業者(以下この条において「譲渡人」という。)が一般建設業の許可を受けている場合にあつては譲受人(建設業の全部を譲り受ける者をいう。以下この条において同じ。)が当該一般建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る特定建設業の許可を、譲渡人が特定建設業の許可を受けている場合にあつては譲受人が当該特定建設業の許可に係る建設業と同一の種類の建設業に係る一般建設業の許可を受けている場合を除く。)において、譲渡人及び譲受人が、あらかじめ当該譲渡及び譲受けについて、国土交通省令で定めるところにより次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の認可を受けたときは、譲受人は、当該譲渡及び譲受けの日に、譲渡人のこの法律の規定による建設業者としての地位を承継する。
一 譲渡人が国土交通大臣の許可を受けているとき 国土交通大臣
二 譲渡人が都道府県知事の許可を受けているとき 当該都道府県知事。ただし、次のいずれかに該当するときは、国土交通大臣とする。
イ 譲受人が国土交通大臣の許可を受けているとき。
ロ 譲受人が当該都道府県知事以外の都道府県知事の許可を受けているとき。~以下略~

今後、公共工事を直接受注するか否かは別として、自社の技術面・財務面に対する客観的評価となる経営事項審査を受ける意義は格段に大きくなると思います。将来、事業や株式を譲渡するにしても譲り受けるにしても、どちら側であっても自社に対する客観的評価があることは交渉の切り札になります。譲り受ける側こそ経営事項審査を受けておくことにメリットがあるのではないでしょうか?譲渡する側に安心感をもたらすと思います。譲渡する側は、譲り受ける側が実施するデューデリジェンスを必ず受けるので、事業を誰かに承継する決心をしたあとで、わざわざ初めての経営事項審査を受ける必要性はないかもしれません。

昨年他界した伯父は中卒で大工の修行に入り、厳しい修行を経て自分の工務店を立ち上げた親方でした。最盛期には10人以上の弟子を住み込ませて面倒を見ていたそうです。いまから半世紀近く前にハワイに家族旅行へいく姿を見て、幼心にも大工業を羨ましく感じました(それ以前の苦労など何も知りませんでしたから)。伯父はたくさんの弟子を育てましたが、工務店を承継する後継者には残念ながら恵まれませんでした。

建設業において労務費にしわ寄せがくる構造的問題が、可及的速やかに解決されないと、近い将来日本のインフラ維持・改善、災害からの復旧復興も立ち行かなくなるかもしれないという懸念は、建設業にかかわらない人にも他人ごとではない重大な社会問題だと思います。

出典:国土交通省ウェブサイト (https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tochi_fudousan_kensetsugyo13_sg_000001_00070.html

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