社会は行政法で出来ている~昨今の中小企業の事業承継に必要な洞察とは

行政書士になるためには、行政法を勉強する必要がありますが、日本には行政法という法律は存在しません。実際には、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法等を大きく行政法科目として、憲法、民法、商法(会社法)等に加えて勉強する必要があります。行政書士法からも出題されます。

しかし一方で、社会は行政法で出来ていると言えます。世の中のルールを規定する法令(法律、政省令、規則、条例等)のほとんどが行政関連法令だからです。そうした世の中の仕組みを司る多種多様な行政関連法令*に基づき、「行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資すること(令和8年1月1日施行の改正法)」、が私たち行政書士の国家資格者としての使命です。(*他士業にだけ認められている領域を除く)

行政書士をしていますと、世の中に数多ある法令が全くの初見であっても、その構造は他のなじみある法令と類似しているため理解し易く、世の中の仕組みを深く理解することができるようになります。そこがこのお仕事の一番面白いところだと個人的には感じています。

ところで、昨今重要な社会経済課題となっている中小企業の事業承継にも、行政書士は関与することができます。まず、中小企業の事業承継を独占的・排他的に取り扱うことが認められている資格や組織体は日本には存在しません。誰でも従事することができます。

第三者への事業承継のパターンは、事業だけを売買する場合と、株式を売買(つまり会社を丸ごと売買)する場合の大きく二つに分類できますが、事業を買う側は、原則新たに許認可を取得する必要があり、株式を買う側は、企業名・代表者等の変更申請が原則必要となります。とりわけ、売り手側に現在の許認可で要求されている報告等の漏れがないことや、買い手側に当該事業許認可の欠格事由がないことを確認する作業等が重要です。

私たち行政書士が事業承継で直接必要とされるのは、このような事業承継後に各種許認可でどのような手続きが必要かを事前にチェックする場面においてです(一般にこの領域は法務デューデリの一部で弁護士主導ですが、行政書士も協同で作業に臨みます)。

事業や株式の売買等、形式的な手続き自体が適法に実行されたとしても、事業承継後の事業の進め方に問題があれば、その事業承継は失敗だったということになりますから、事業承継が許認可に与える影響を予め精査することは事業承継の生命線です。事業承継に際して、本業に関係する行政関連法令やその手続きに深い洞察のある専門家を使うことは必須です。

さらに事業承継に際して必要となる諸経費(後継者探しや、専門家に支払う費用)に対する補助金を受給したい場合、まさしく本業として行政書士がお手伝いすることができます。

ほぼ例外なく行政手続きが発生することを鑑みれば、事業承継において生命線となる許認可申請に通暁している行政書士を、当初から事業承継の窓口としておけば水先案内人を得たことになります。事業承継において行政書士単独ではできない業務はもちろんたくさんありますので、弁護士、税理士、司法書士、社労士等の専門士業をご紹介する窓口としても活動します。

ちなみに私たち行政書士の業務は非常に細分化されているため、同業者間での知見の共有にとても開放的です。ライバルであってライバルではない部分も多く、情報を共有し合い、補完しあいながら業界全体のレベルアップに日々勤しんでいるので、各分野の専門行政書士をご紹介することも可能です。

そして究極的な事業承継とはすなわち、経営者の死後のプランニングそのものでもあります。遺言・相続等民事法務においても私たち行政書士はお手伝いすることができます。

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