建設業者が死亡した場合において(建設業法第17条の3 相続)

本稿では主に以下3点についてお話します。

  1. 相続により既存の建設業許可を承継する場合の手続とネック
  2. 相続による承継が適用されない場合の対処
  3. 建設業を営む個人事業主さんへのご提案(本稿の結論)

1-① 建設業法の相続規定

建設業法第17条の3には次のように規定されています。

「建設業者が死亡した場合において、当該建設業者の相続人が被相続人の営んでいた建設業の全部を引き続き営もうとするときは、その相続人は、国土交通省令で定めるところにより、被相続人の死亡後三十日以内に~中略~その認可を受けなければならない。」(出典:e-GOV法令検索 建設業法 ただし、カッコ内を割愛)

建設業者が死亡した場合、という冒頭の表現は重要です。つまり、”建設業許可を受けている個人事業主”が死亡した場合に限定されるものであり、建設業を営んでいるが許可を受けていない個人事業主が死亡したケースはこの規定の対象になっていないということです。

1-② 国土交通省令 建設業法施行規則(相続の認可の申請等)が規定する認可申請に必要な書類

建設業法施行規則第13条の3に、この認可申請に必要な具体的書類が列記されています。たとえば、申請者(=建設業を承継する人)と被相続人との続柄を証する書類、申請者に係る工事経歴書、申請者に係る直前3年の各事業年度における工事施工金額を記載した書面、欠格事由に該当しない誓約書等。つまり”承継者及び相続人が建設業の許可要件等を備えていることが必要です。” (引用文献:建設業許可(申請・変更)の手引 東京都都市整備局市街地建築部建設業課 令和7年度)

1-③ 当てはまるケースと手続上で想定されるネック

具体的なイメージは、お父さんが建設業者で、長らくお父さんと一緒に家業をお手伝いしてきた息子さんが相続人として承継するパターンですが、同施行規則同条第1項第9号で、「申請者以外に相続人がある場合においては、当該建設業を申請者が継続して営業することに対する当該申請者以外の相続人の同意書」が求められています。

ここでいう同意書は、遺産分割協議書に近い内容をイメージすれば良いと思いますが、相続人を特定する作業だけでも30日以内に完了するとは限らないので、実践性には疑問を感じます。法的に有効な遺言があれば相続人または受贈者(つまりここでの申請者)の承認だけで足りると思いますが、これも個別相談事項でしょう。そして法的には有効な遺言であっても、遺留分侵害額があれば、別途相続人間で金銭補償することになる可能性もあります。

また仮に、相続放棄を希望する法定相続人が存在する場合、かかる同意書に名を連ねること自体が相続放棄と矛盾することになりかねないのでさらに慎重な対応が必要です。相続放棄を希望する相続人については例えば、”相続放棄申述のため、現在被相続人の資産・負債を精査中としつつ、上記内容に同意する。”とか、”資産も負債もゼロ円相続する。”といった内容を想定しますが、個別具体的精査が必要です。

個人的には相続放棄の熟慮期間と同じ3か月で認可申請期限が設定されても良かったと思いますが、許可業種という特性上、30日が限界という判断もあったのでしょう。認可申請については事前相談を求められているため、具体的案件が出てきた場合には、相続人特定に30日以上の時間を要す可能性が高い、遺言があった、相続放棄を希望する人がいる等、個別事情を相談することになると思われます。

1-④ 認可申請するメリット

以上のように認可申請手続は煩雑ですが、相続発生後30日以内に上記書類等を整えて認可申請することができれば、従前は無許可だった承継者や相続人であっても建設業の許可要件等を備えていれば、認可決定あり次第、被承継者・被相続人が受けていた建設業許可と同じ番号(つまり建設業者としてのヒストリーを保存できる)を承継できる仕組みです。なお、建設業許可業者が承継する場合には許可番号を選択できることになっています。相続の場合、許可の有効期間は相続の日から5年とされています(東京都)。

2 相続による承継が適用されない場合の対処

まだ建設業許可を受けていない場合、きたるべき承継に備えて建設業許可を取る、法人化するなど事業承継の方向性について推定相続人とお話されておくのも一案かと思います。許可要件に足りない部分があれば可及的早期に埋めなくてはなりません。これまでの長年の建設業経験があれば、ヒトとモノについては備わっているかもしれませんが、カネについてはしっかり見直す必要があります。

建設業許可(申請・変更)の手引 東京都都市整備局市街地建築部建設業課 令和7年度 9頁によれば「財産的基礎等」に関する要件は次のいずれかに該当することとされています。(注:個人事業主の方を対象にしますので本稿では一般建設業に限定)

  1. 自己資本の額が500万円以上あること。
    • 同手引によると「自己資本とは、~中略~ 個人では、期首資本金、事業主借勘定、事業主利益の合計額から事業主貸勘定の額を控除した額に、負債の部に計上されている利益留保性の引当金と準備金の額を加えた額をいう」とされています。
  2. 500万円以上の資金調達能力があること。
    • 「「資金調達能力」については、申請者名義の口座における取引金融機関発行の500万円以上の預金残高証明書又は融資証明書により判断する。」とされています。
  3. 直前5年間東京都知事許可を受けて継続して営業した実績があること。

3は、かつて許可を受けていたが途切れてしまったケースでの再申請を想定しているのでここでは敢えて除外して、1と2を見てみます。

上記の計算式上は500万円に相当する自己資本があってもいまの現預金残高とは無関係です。利益留保性引当金を足し戻すことが認められていても、それは”決算日時点にその金額に相当する引当金の残高があった”という過去の話であって、今後のオペレーションに必要な資金繰りをバックアップするものではありません。典型的な引当金としては、完成工事補償引当金がありますが、決算のあとで無償で追加工事をせざるえなくなり、引当金は帳簿から消え、しかも材料費や労務費を自己負担するため現預金が減っているケースもあるはずです。

融資証明書とは、銀行等金融機関内部で必要な事前審査を経て対外的に約束するものです。しかも建設業許可申請のために公的機関に提出する以上、金融機関内部ではより厳格な審査が必要です。ある日突然金融機関に依頼しても簡単に出してもらえるものではありません。まずは金融機関が融資を約束してくれる財務状況であることが必要です。結局、現預金を500万円以上準備することが一番確実なおカネの手当ですので、常日頃から手元資金を厚めにしておくことは経営安定上も欠かせない要素です。

公的な資金繰り改善サポートもあります。例えば”ものづくり補助金は革新的な新製品・新サービス開発の取り組みに必要な設備・システム投資を支援”する仕組みです。賃上げを約束する事業者に関しては補助上限額が引上げられる特例措置も導入されているので、建設業においてはより魅力的な補助金となっています。ただし、補助金受給をうけるには、まず事業計画を策定しなくてはなりません。2025年度の中小企業白書によれば、中小事業者で事業計画を策定しているのは5割程度でした。https://ktanaka-capls.com/knowledge-transfer/sme/for-your-business-continuity-planning/4210/ 

ものづくり補助金の対象は、現在の製品やサービスとは全く異なる新製品・新サービス開発のための支援ですので、しっかりとした事業計画を練る必要がありますが、これまで建設業許可を受けていなかったが新たに建設業許可業者になることはそれだけでも取引先への新サービス提供になる可能性があります。

補助金が採択されれば、システム構築費、専門家経費、クラウドサービス利用費等が補助対象経費となります。補助率は中小企業で1/2、小規模企業・小規模事業者で2/3です。仮に従業員3名の小規模事業者の場合、補助下限である100万円支出すればその2/3が補助金でカバーされる計算になります。

「革新的な新製品・新サービス開発とは、顧客等に新たな価値を提供することを目的に、自社の技術力等を活かして新製品・新サービスを開発すること」(出典:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(第22次公募))

当事務所では、日々の記帳代行、金融機関との折衝、事業計画策定から補助金の申請のお手伝いまで顧問契約ベースで承ります。

3 建設業を営む個人事業主さんへのご提案

相続発生からわずか30日という極めてタイトなスケジュールで上記の手続を終えるのは並大抵ではありません。認可申請期限に間に合わず、相続人の方が一から建設業許可を取り直すことになれば商機を逸失する可能性も高くなります。

以上1、2の検討事項を踏まえると、年商1000万円を超えるなどそこそこの規模で建設業を営まれていて、ご子息など後継者の目途もある場合には、事業承継に備えて法人化しておくことがベターだと思います。https://ktanaka-capls.com/knowledge-transfer/inheritance/6722/

なお、法人の場合の事業承継に関してはまた別の規定が用意されているので、本稿の続編として後日ご説明いたします。法人であれば相続人に限らず第三者への事業承継を選択できる可能性もあります。

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