先日、建設業の許認可を担う行政書士向けのオンライン講習がありました。講師は国土交通省の方でした。建設業の現況アップデートと最近の話題について言及されていました。
最近の話題としては、今年7月から導入された新しい仕組みで、資本性借入金を一定条件下で自己資本にカウントする制度があります。公共工事を直接請け負う建設会社は、財務体力などの経営事項審査(後述)をクリアする必要があります。その中で自己資本は非常に重要な財務指標になっています。公共工事を直接請け負うことをしない建設会社においても、民間銀行等金融機関とのお付き合い上、自己資本比率が重要であることに変わりはありません。
国土交通省によれば、経営事項審査項目で本件に関係するのは、負債回転期間、自己資本比率、自己資本対固定資産比率、自己資本額の4つです。
- 負債回転期間とは、負債が月商の何か月分に相当するかという指標で小さい方が優れています。資本性借入金は負債から控除されます。
- 自己資本比率とは、(返済義務のない)自己資本が総資本の何%に相当するかという指標で大きい方が優れています。資本性借入金は自己資本にカウントされます。
- 自己資本対固定資産比率とは、設備や建物等の固定資産のうち何%を自己資本で賄っているかという指標で大きい方が優れています。同上
- 自己資本額は経営事項審査上は大きい方が優れています。同上
小林裕門先生の著書”中小建設業者のための「公共工事」受注の最強ガイド”89~90頁によれば、「経営状況分析(Y点)の8指標のうち、中小建設会社の評価に与える影響が大きい指標は、純支払利息比率、総資本売上高総利益率、自己資本比率、負債回転期間の4つ」とされています。
資本性借入金はひとことで理解し難い概念ですが、金融業界では、資本と負債の中間に位置するものとして、メザニン(中二階)デット(負債)とか、劣後ローン等と表現することが一般的です。今回テーマとなっている建設業に関して言えば、日本政策金融公庫等の政府系金融機関が資本性借入金の主たる貸し手になると想定されています。私見ですが、日本政策金融公庫等の資本性借入金を積極的に取り入れることで、中小建設会社の財務的安定性も向上し、経営事項審査においても点数が改善する可能性が高いと考えます。
たとえば、資本性借入金を借り入れている建設会社の業績が悪化したとき、資本性借入金の貸し手は直ちには債権回収や債権保全ができません。他に通常の借入金があり、民間金融機関がその貸し手である場合には、それら民間金融機関が自身の債権回収において満足することが優先されます。資本性借入金の貸し手を一般に劣後債権者といいます。資本性借入金の債権者が債権回収できる順位は一般債権者よりも劣位し、株主よりは優位なので、メザニン(中二階)等と表現されるわけです。
他方、資本性借入金の借り手たる建設会社の業績が良くなると、資本性借入金の適用金利は通常の民間銀行借入れより高くなる仕組みになっています。しかし難しいのは、「業績好調だし、金利の高い資本性借入金を期限到来前に返済してしまいたい。」と思っても、民間銀行の同意なくしては、期限前に返済することができない条件になっていることが一般的である点です。民間銀行も、いざというときにその建設会社を支えてくれる資本性借入金の貸し手が不在となる事態は避けたいと判断するのが一般的なので、基本的に同意しないと思います。従って、資本性借入金を期限前に返済する場合には、まず先に民間銀行からの通常の借入金を完済することが条件になると思います。しかしそれはよほどの財務体力がない限り、その企業の資金繰りを圧迫します。
この制度の将来的な改善案のひとつとして次のように考えます。
【PL項目への反映】できれば資本性借入金の支払利息についても、経営事項審査上の支払利息から除外する方が整合的と考えます。経営事項審査上、純支払利息比率(支払利息-受取利息-配当金が売上高に対して何%に相当するかという指標で、小さいほど優れています)も改善し、経常利益には資本性借入金の支払利息が足し戻されるので、売上高経常利益率も改善します。要すれば、損益計算書項目においても、経営事項審査の数値が改善するのであれば、資本性借入金を取り入れるインセンティブとなり、結果的に民間銀行からの資金調達も安定し易くなります。経営事項審査の数値が改善すれば、公共工事を請け負う建設会社としての信頼も高まりますので、国や地方公共団体等の発注者はもとより、民間銀行もその中小建設会社と付き合いやすくなります。
注意点:以上の修正は経営事項審査において経営状況分析上、数値を読み替えるものであって、財務諸表や税務申告書等を書き換えるものではありません。対外的な財務諸表は現状のままです。
参照:国土交通省HP【概要】資本性借入金に係る経営事項審査の事務取扱いについて、資本性借入金に係る経営事項審査の事務取扱いについて
参照:日本政策金融公庫HP 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)
参考図書:中小建設業者のための「公共工事」受注の最強ガイド/行政書士小林裕門先生著
経営事項審査とは、「公共工事(国又は地方公共団体等が発注する建設工事)を発注者から直接請け負おうとする建設業者が、必ず受けなければならない審査です(根拠条文建設業法第27条の23)。この審査には、建設業者の経営規模の認定、技術力の評価、社会性の確認及び経営状況の分析があります。」(出典:東京都都市整備局市街地建築部建設業課 経営事項審査申請説明書/令和7年9月より抜粋)
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