遺言公正証書作成に立ち会う機会がありました。遺言を公正証書化するには、相続に利害関係のない証人が2人必要なので、その1人として立ち会いました。遺言者の方が、すべてのお手続が完了したところで、ホッと胸をなでおろされていたお姿が印象的でした。遺言は前向きな終活です。
多少コストが必要ですが、遺言を遺すなら、公正証書が一番良い方法だと私は思います。
遺言の方式面で公証人という法律のプロによるチェックが入ります。
原本紛失のリスクがありません。東日本大震災の津波経験から、現在公証役場は、遺言原本はもとより、遺言をデータベース化して保存しています。
家庭裁判所による検認も必要ありません。検認を経ていない遺言も効力はありますが、遺言を基に相続財産の名義変更を受け付ける金融機関等では、検認を経ていない遺言は、名義変更の根拠として取り扱ってもらえないようです。(ちなみに三菱UFJ銀行の相続手続で、遺言に関しては「公正証書遺言の場合または法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用されている場合を除き、家庭裁判所の検認済証明書もあわせてご用意ください。」と要求されています。https://www.bk.mufg.jp/tsukau/tetsuduki/sozoku/shorui.html 詳しくはお取引金融機関にご確認ください。)
「遺言書を(家庭裁判所に)提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処」せられます。(民法第1005条)
BCP(事業継続計画)策定の観点からは、遺言を公正証書化しておくのが一番確実だと思います。自然災害で経営者が落命してしまった場合、残された従業員やその家族はとても困ることになります。自筆証書遺言を自宅で保管することもできますが、方式に不備があったり、そもそも遺言が発見されなかったりすると却ってやっかいなことになります。公正証書化しておけば、遺族も遺言の有無を調べることができ、方式上の懸念はありません。検認を忘れて開封してしまうリスクもありません。
ちなみに2025年版「中小企業白書」は、「中小企業・小規模事業者が最も重視する経営課題は共に「人材確保」と回答する割合が最も高く、「中規模企業」では「省力化・生産性向上」、「小規模事業者」では「事業承継(後継者不在を含む)」の回答割合が「人材確保」に次いで高(16頁)。」いことを指摘しています。
まずは後継者を見つけることがスタートラインですが、相続が争族にならないようにするのが、遺言を作成する最大の目的なので、公正証書にしておくのが一番だと思います。
また、「一定の要件を充たす中小企業において、先代経営者から自社株式や事業用資産などの遺贈・贈与等を受けた後継者が、一定の場合に、~中略~後継者が先代経営者からの遺贈・贈与等により取得した自社株式や事業用資産について、遺留分を算定するための基礎財産の価額に算入しないことができる」としています。(出典:潮見佳男 詳解相続法 第2版 弘文堂645頁)
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」
(目的)
第一条 この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする。
一定の要件等、詳しくはこちらをご参照ください。https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.html