地方自治法の精神

私たち行政書士の試験科目には地方自治法も含まれていて出題範囲も広いので、結構勉強が必要です。私が受験したときの地方自治法の問題は激ムズで、3問中おはずかしながら1問しか正解することができませんでしたが、難しすぎて正解者が少なかったようで、幸いなことに致命傷になりませんでした。地方自治はもっとも身近な行政なので、勉強すれば実生活にも役立ちます。

なかでも、地方自治の原則(住民自治、団体自治)、二元的代表制(首長と地方議員の両方が直接選挙で選ばれる)や、首長と議会の関係(不信任とその後の首長の対応や仕組み)、百条委員会の権限などは試験的には重要テーマでしたのでそれなりに勉強しました。もっとも受験勉強中は、「こんな事態はそうたびたびはおこらないだろう」とあまり現実的な問題としては捉えていませんでした。

しかし昨年の西日本での不信任、百条委員会、出直し選挙に加え、こんどは某首長さんが不信任を受けて、地方議会を解散されました。地方自治法の規定することを、首長の権限として実行されたという意味で、(倫理的・道義的問題はともかく)法的問題はありません。が、この運用の仕方は地方自治法が予定するところではないという意味で法の精神に合致していないと感じる人は多いでしょう。首長の不信任に対する、地方議会解散は、本来何らかの重要な政策的議論において首長と議会の協議が整わないときに、最終手段として有権者に問うための手段であるはずです。

他方一番の疑問は、なぜ選挙管理委員会が表に出てこないのだろうかという点です。しかもその首長は首長選挙に立候補するまで2019年からの2期、同市の市議会議員であったので、選挙管理委員会はかねてよりバックグラウンドくらいチェックしているのではないかと思いました。もちろん学歴詐称は倫理的・道義的に許されないとしても、「学歴を詐称して当選したわけではないので選挙は有効」と選挙管理委員会が判断すれば良かったのではないかと思います。選挙自体が有効であれば、必要最小限の民意を汲んでいたのですから(選挙管理委員会は公式見解を述べていて、私が知らないだけかもしれませんが)。

もし首長の任に不相応と有権者が本当に判断するのであれば、少々面倒ですが、有権者による首長の解職請求をすることも可能ですが、そうした動きは見受けられませんでした。卒業証書をチラ見せしたか否かなど、地方公共団体の業務において本質的ではないことで市政が紛糾し、市のイメージダウンにもなり、市民のみなさんを気の毒に思います。

ただそもそも学歴がそんなに重要なことなのかという疑問もあります。学歴はその人の個性でしかないと思います。1人の人間が18,19歳ころペーパーテストでいい点が取れたら、その人のその後が永久保証されるわけではないし、ひとりひとりの人間の能力にたいした差はありません。この首長の場合、除籍されたということは少なくとも合格していたので、それでよかったのではないかという気もします。ここまでに至る時間的・経済的ロスの方が大きかったのではないでしょうか。泣いても笑っても首長の任期は4年しかないのだから、もっと他にリソースをつかうべきことがあったのではないかと感じました。

このままいけば、低くない確率で首長の選挙も必要になり、更なる追加コストと手間、なにより市政が完全にストップすることの損失は大きいと思います。今回の件を受けて、地方自治法改正が検討されるかもしれないと思いました。戦後まもなく制定された地方自治法の根幹を揺るがす一連の騒動です。ただでさえ、成り手が足りない地方議会がますます不人気職業になってしまうのではないかと危惧します。

地方自治法 

第1条 この法律は、地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする。

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