書店活性化プランと多文化共生について

実店舗の書店を訪れるメリットは、知らない本との偶然の出会いがあるということに尽きると思います。効率を考えればネット購入の方がもっと賢明でしょうが、私は敢えて書店に足を運ぶ派です。未知のジャンルの本が並ぶエリアにも時折り入ると意外な良著(門外漢の自分にも読むことができそうという意味で)に出会えることも多いです。

書店のない自治体は493自治体で、全国自治体の28%に相当し、書店のない自治体には図書館がないことも多いとのこと。そうしたなか、経済産業省がイニシアチブをとって、書店活性化プランが練り上げられているようです。

政府は「書店特有の課題を①読書人口の減少や書店の魅力向上に関する課題、②地域における書店と図書館・自治体との連携の在り方、③業界慣行における課題、④経営における効率化・省力化に関する課題、⑤新規出店やキャッシュレス決済に関する課題の5つに分類し、これらの課題については政府が単独又は民間と協力して取り組む施策として整理した。」ここで掲げられている課題を見る限り、書店経営の構造的問題は農業のそれと性質的によく似ているように感じられました。

海外駐在中、一番大きなストレスは、日本語の書物を自由に入手できないことでした。当時勤めていた会社では、海外駐在員の書籍購入に際して一定量まで送料を負担してくれる制度があり、とても助かりましたが、それとてネット注文であり、実物を手に取ることはできません。実店舗の書店にめったにいけない(一時帰国するか、NY,LA等近隣の大都市のみ)ストレスが解消することはありませんでした。日本で外国語の書籍を多く扱う書店に行くと、外国人客がたくさんいるのを目にしますが、そのお気持ちはよくわかります。その客の中には外国語としての日本語学習テキストを探す向きも多いようです。

例えばそのように母国語情報に渇望した経験のある人たちを巻き込んで問題提起すれば、書店業界はもっと活性化できるかもしれないと思います。これだけ在留外国人が多くなれば、子供の教育面からも母国語の書物を読みたいニーズは潜在的に高いはずです。日本に住む外国人に母国語書物を提供できるような優良企業を”経営管理するビザ”であれば、地元住民の理解を得られるに違いありません。

町の小さな書店が多文化共生のキーポイントになることだって可能だろうと思います。外国語の書物に加え、日本語学習テキストも充実させれば効果的だと思います。もっとも、そうした書物を完全に自力で調達するのは難しいでしょうから、そこには公の支援があってしかるべきだと思います。

人口減少がもはやありとあらゆる分野の共通課題であるとすれば、その減少を打ち返してくれる人々と共存・共栄を図ることは実効性が高いと思います。それがきっかけになって、日本人の外国語教育レベルも向上するかもしれません。

ペルーに駐在していたとき、スペイン語を解さないお客さんを連れてマチュピチュに旅行したことがあります。ペルー人の20代の女性にガイドを頼みました。その方は一度も日本にいったことはないとのことでしたが、流ちょうな日本語でマチュピチュをガイドしてくれ、お客さんもご満悦でした。ほぼ独学でもそこまで到達できるのは、日本語を学ぶ興味と経済的な必要性があったからですが、凄いと思いました。その方の日本語学習のきっかけはマンガでした。日本が誇る最強のキラーコンテンツであるマンガやアニメの世界的影響力をうまく活用すれば、書店活性化に有効な施策はたくさん考えだせると思います。

参照情報:(書店活性化プラン 令和7年6月10日 経済産業省他)

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