落札でコメを譲り受けた業者及びその先のサプライチェイン上にある小売店にとっては、後出しでルール変更があり、ほぼ同じものが二重価格でしかも後から譲受した業者のコメが先に販売されていることには納得がいかないと思います。
かなり無理やりですが、この状況を法的に打破できる枠組みがないものか、頭の体操として考えてみました。もちろん、私の個人的な見解にすぎません。
その1 前農林水産大臣や農水省の役人の故意または過失で損害を被ったとして、国家賠償法1条に基づき国を訴える
国家賠償法 第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
判例をざっと見る限りでは、備蓄米放出が公権力の行使に当たるとするのは難しいようにも思えます。しかし一方で、公権力の行使ではなく、純粋な私経済作用である、すなわち国家賠償法の適用対象外であると言い切ることも容易ではないと考えます。備蓄米は国家の財産であり、備蓄米の売渡は少なくとも民間企業にはできないことです。
備蓄米放出が公権力の行使に当たると仮定して、公務員の「故意又は過失によって違法に他人に(ここでは高く落札した業者やコメが売れ残ってしまった小売店とします)損害を加えた」か否かについて考えてみます。
当初入札では、一番高い値段で落札した業者が備蓄米を譲り受けています。しかし、落札者などが全く予見できない突発的ルール変更で、政府は価格面では赤字覚悟で、しかも輸送コストまで負担して、ほぼ同じコメを落札価格より安い価格で別の業者らに譲り渡しました(同一業者も存在するかもしれませんが不考慮)。
私人間の契約であっても、同じものの売買においてこれほどまでのルール変更はさすがに損害賠償を請求されても仕方ないほどのインパクトであるはずです。当初の落札者やその業者から仕入れた小売業者が、「商売に当然伴う価格変動リスクを取った」としても、取引相手が公的機関である以上、最低限の信頼関係があったはずです。
備蓄米の放出において随意契約が適用できることを過失によって農水省の担当者が知らなかったのか、それとも故意にその方法を開陳せず従来の入札を実施したのかは不明ですが、いずれにしても、激烈なルール変更が後日ありえたことについて全く善意の他人は、結果的に余計な費用と予見不可能な事業上のリスクを負担することになりました。
これは国家賠償法上の公務員の「故意又は過失により他人に損害を与えた」要件を充たしうるのではないかと考えます。行政法総論的にみても、公的機関による私人の扱いにおける大原則である平等原則を欠いており、入札と随意契約において相手方を不平等に扱うことに合理的理由は見当たらないことから、行政の裁量を逸脱していると思います。
その2 民法上の不法行為で国を訴える
国家賠償法1条の適用は難しいとして、民法を根拠にするとどうなるのでしょうか。
不法行為の成立要件は、①加害者による故意または過失による行為があったこと、②被害者の権利または法律上保護される利益が侵害されたこと、③被害者に損害が発生したこと、④故意または過失とその損害との間に因果関係があること、⑤加害者に責任能力があること、とされています。
当てはめてみると、①国は故意または過失により、公平な制度設計を懈怠した。②取引相手は行政から不平等な扱いを受けた。公的機関から公平に扱われる権利を侵害された。③取引相手は結果的に余計な費用を負担し、コメも売れ残るなど、経済的損害が発生した。④制度設計に不備があったことと取引相手が被った損失には因果関係が認められる。⑤加害者には言うまでもなく責任能力はあります。ここから先は弁護士先生にお任せするとして、何とか主張・立証ができそうな気もします。
その3 当初の入札とその結果を取消すべく、行政事件訴訟を提起する
入札実施が行政庁による処分として認められるのはかなり難しいと思います。国家賠償法における公権力の行使と比較して、行政事件訴訟法上の公権力の行使はスコープが狭く判断も厳格なので、入札結果に処分性は認められず、訴訟要件を満たさないため、訴訟は却下されておしまいでしょう。
通常の公共入札は、行政機関がおカネを払う側で、公金支出を公正・透明にするための手段ですが、今回の備蓄米放出は、政府がおカネを受け取る側です。備蓄米を事実上の公金支出とみなして、公正・透明に支出するために国は入札を実施し、応札するか否かには私人側に自由意思があったので処分ではないということになるのでしょう(ただし今回は、誰も落札しないで入札が流れることは前提になっていなかったので、出来レース、というか事実上落札者は決定していたのかもしれませんが)。
いろいろと勉強にはなりました。