中小企業白書は300頁を超える大著ではありますが、多くの情報を与えてくれます。中小企業庁から公表され、国会に提出される中小企業白書を、アンケートに回答した経営者らのうちどのくらいの割合の方がご覧になるのかはわかりませんが、一読する価値はあります。個人事業主である私も経営者のひとりです。
次のような課題が浮かび上がりました。(注:私の個人的な解釈であり、作成者の意図とはかならずしも一致しません。また白書中のいくつかの指標を抽出して、独自分析しています。)
<2割以上の企業が経営計画を策定していない>
アンケートに回答した24千事業者のうち、経営計画を策定しているのは51.1%で、今後策定するは26.6%ですが、22.3%は策定する予定もないと回答しています。ちなみに、策定している事業者のうち最大割合の38.2%が1年超~3年以内の計画を策定しています。
<3割以上の経営者には経営に関する相談相手が社内に存在しない>
経営人材が経営者以外に何人いるかとの問いに対して、売上高10億円未満の企業17千社のうち、「経営人材はいない」と答えた企業は実に35%です。経営人材がいないと回答した7千事業者のうち経営計画を策定しているのは38.1%です。34.7%は策定する予定もないと回答しています。策定していない理由の第一位は時間的余裕がないためです。
<30名以下の企業の7割が人事評価制度を整備していない>
従業員30名以下の企業12,851社のうち74.9%が人事評価制度を設けていないと回答しています。人事評価制度を設けていない9,313社のうち56.6%が設けていない理由として「経営者が全従業員の状況を把握しているから」と回答しています。30名以下とはいえ、経営者が全従業員を本当に把握できるのだろうかと?個人的には疑問を抱きます。
<経営理念・ビジョンの共有不足と低成長には相関関係がある>
売上高10億円未満の企業のうち、従業員への経営理念・ビジョンの共有に十分取り組んでいる企業の割合は14.1%で、ある程度取り組んでいる50.3%を合計すると65%弱に達しますが、残り35%の企業はあまり取り組んでいない(21%)かほとんど取り組んでいない(14.5%)という結果が出ています。ちなみに売上高100億円以上の企業の90%が十分またはある程度取り組んでいます。
企業の成長(白書ではスケールアップと表現しています)と経営者による従業員への経営理念・ビジョンの共有の取組状況には一定の相関関係があるようです。売上高10億円未満で経営理念・ビジョンを従業員と共有した企業の8%が過去5年間で成長したのに対し、経営理念・ビジョンの共有に取組んでいない企業では3.3%しか成長していません。
<まとめ>
経営者は孤独であるという現実を強く印象付ける結果です。かなりの比率で、経営者自身が一人でありとあらゆることに対応している印象です。しかしどれだけすごい人でも、一日は24時間しかありませんし、一人で全て対応するのは無理だろうと思います。売り手市場の労働市場で、人事評価制度を持たない組織が人材を確保するのは難しいと思います。経営者が全従業員の状況を把握できているから導入していないというより、社内に相談相手がおらず、人事評価制度を導入したくてもできない、というのが現実ではないかと想像します。
さらに経営計画を策定するつもりもない企業が2割を超えていますが、経営計画なくしては、毎年の給与改定やボーナス支給額の決定は難航を極める(もしくは公平性を維持し難い。そこは人事評価制度がないことと負の意味で整合するのかもしれませんが)でしょうし、事業拡大のために必要な補助金・助成金も申請することができません。もちろん経営は数字が全てではありません。各社の限られたリソースで目の前のことに集中しているということと理解します。しかし数字は経営のスタートラインです。
経営理念・ビジョンの十分な共有がないと、従業員は経営者が何を考えているのかよく理解できていないのではないかと憂慮します。まずは経営理念・ビジョンを策定するところからスタートする必要がありそうです。私も経営理念・ビジョン作り、経営計画策定をお手伝いします。まずそれに着手できさえすれば、BCP策定もポイントは同じなので、BCPの基礎が完成したことになります。いやむしろ、BCPを策定することこそが、経営計画の根幹になると私は考えています。
出典:2025年版「中小企業白書」中小企業庁 令和7年4月25日
詳しくはhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho.html