コメ輸出促進のなぞ

「なぜ、今輸出なのか 我が国の人口は2010年の1億2,806万人をピークに減少局面に入っており、2070年には8,700万人にまで減少すると予測されている。また、我が国の年間一人当たりのコメの消費量は、1962年(昭和37年)以降減少を続け、2023年(令和5年)では51.1kgとなっている。
○このような人口動態やコメの消費量の減少を背景に、我が国のコメの年間需要量は毎年約10万トンずつ減少。
○コメの国内マーケットが縮小傾向にあるなか、コメ・コメ加工品の生産・流通を生業とする幅広い関係者が産地と連携し、新たな海外需要開拓を図っていくことは喫緊の課題。出典:農林水産省 米の輸出をめぐる状況について 令和7年4月 農産局企画課」

これは昔の資料ではなく、ほとんど話題になっていませんが、2025年4月に農水省から公表された資料です。同じ資料によれば、2024年1年間のコメ輸出量は4万5千トン、金額ベースで120億円。直近5年間で2.6倍に増加しています。因みに足許2025年1~2月の実績は約7千トン(同20億円)で前年同期比+21%。この2か月の実績値を単純に年換算すると42千トンですが、前同比の伸び幅が+21%であることを勘案すると、今年通年で前年を上回り、おそらく史上最高になるペースなのでしょう。たしかに海外に日本食レストランが増えていて、日本のコメの需要が海外でも高まっているのは実感としてよくわかります。

しかし日本国内ではコメが足りていないわけで、今この時期に輸出を促進する政策が本当に必要なものなのかよくわかりません。もちろん、海外取引先との約束もあるでしょうから、簡単に量を減らしたり、唐突に輸出を打ち切ったりすることはできないと思いますが、もう少し全体観をふまえたコーディネーションがあってしかるべきではないかと。消費者が本当に恐れるのは、コメの価格上昇ではなく、コメの国内供給量の絶対的減少です。

私たち日本人はコメを食べなくなったわけではなく、コメ以外にもパンがあり、パスタがあり、タイ料理があり、インド料理があり、生活に選択肢が増えたということだと思います。コメがいつでも確保されているという安心感があればこそ、他のバリエーションが成り立つのであって、もしも必要な量のコメが手に入らなくなったら、他の食べ物を選ぶ余裕はなくなるはずです。消費者は一目散にコメの確保に走るでしょう。令和の米騒動が起こったように。

人口が減るのだから、たしかに必要なコメの総量は増えないかもしれません。しかし、輸入と輸出を同時に促進するチグハグな政策は消費者を困惑させ、生産者をがっかりさせてしまうのではないかと危惧します。コメだけは政策の失敗が許されないと思います。

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