永野海先生の著書”避災と共災のすすめ”を読んで

私にとってもっとも印象的だったのは、風通しの良い組織でないと、避難がうまくいかないことがあるという災害教訓が述べられていた点でした。こうした災害教訓を、できるだけ多くの次の世代に伝えることに私も微力ながら貢献したいと拝読して再認識しました。

著者はその豊富な経験を基に、現実的災害教訓を経営者に刺さるメッセージに変換します。「企業などの組織にとって、防災はコストパフォーマンスが悪いと考えられがちです。~中略~しかし、人の命を守る防災が力を発揮するのは発災時や緊急時だけではありません。~中略~いや、むしろ平時にこそ力を発揮するのです。~中略~防災に真剣に取り組む企業・団体は人の命を大切にしています。逆に従業員の命が大切だから防災に励むようになるのです。~中略~人材採用に悩む企業・団体は、防災活動を通して働きやすく安全な職場をつくり上げていれば、就職・転職希望者から選ばれる可能性が大きくなります。」(同著74頁防災と組織改善より引用)

多くの企業経営者にとって今一番の経営課題は、人材の採用と育成だと思います。確かに、もし私がいま就職活動をしていたら、1日のそして人生のまとまった時間を過ごす企業や団体を選ぶとき、これほど災害の危険が差し迫っている日本において、防災・減災に関心の低い組織は敬遠すると思います。

ただでさえ今は売り手市場、そして当面売り手市場が続く可能性が高いので、パワハラ、セクハラがNGであるのは最低ルールとしても、防災・減災においても従業員を大切にするか否かという指標は今後ますます重要度が高まると思います。

自然災害が発生したとき、従業員が無事であっても、事業が途絶えてしまえばその従業員は路頭に迷うことになります。その意味でも、BCP(事業継続計画)を策定することは従業員を大切にする第一歩です。

そしてBCPを策定する際、もっとも重視すべきことは、いかにして人命の安全を確保するかですが、そのためには、日ごろからの組織内外での良質なコミュニケーションが全てといっても過言ではありません。つまり、BCPを策定するプロセスそのものが、平時において社内の風通しを改善する効果があると言えるはずです。

参考書籍:避災と共災のすすめ ―人間復興の災害学 永野海 帝京新書

弁護士である永野先生がご自身の実体験に基づいて詳述されていて、士業関係者向きの書籍だと思います。詳しくはぜひお買い求めのうえ、お読みください。

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